## 🍎 りんごという静かな約束
朝の光が障子を透けて、やわらかく部屋に差し込む頃。湯気の立つ急須のそばに、ひとつのりんごが置かれている。赤く、丸く、静かにそこにあるだけで、なぜか心がほどけていく。
りんごは、派手な果物ではない。けれど、その素朴さの中に、季節の移ろいと人の営みがそっと宿っているように思う。秋のはじまり、山のふもとで収穫されたばかりのりんごは、まだ少し冷たい空気をまとっていて、手に取ると岐阜の朝霧を思わせる。
切れば、白い果肉が現れ、甘酸っぱい香りがふわりと広がる。その香りは、どこか懐かしい。子どもの頃、祖母がむいてくれたりんご。冬のこたつの中で分け合ったりんご。誰かと過ごした時間の記憶が、りんごの味に溶け込んでいる。
りんごは、感謝の果物だと思う。誰かに手渡すとき、言葉にできない気持ちをそっと託すことができる。「ありがとう」「元気でいてね」「また会おうね」——そんな言葉の代わりに、りんごをひとつ。
そして、りんごは余白の果物でもある。その丸みの中に、どんな物語も描ける。絵本の中の魔法のりんごも、台所の片隅にある日常のりんごも、どちらも同じように美しい。
今日の朝、りんごをひとつむいてみた。岐阜の空を思いながら、静かな時間を味わった。りんごは、季節と記憶を結ぶ、やさしい約束のような存在だ。
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